遠雷

見た映画の感想など

ドリーム感想。

も〜〜〜!ティッシュの消費がヤバい!あんなに頭がキレる人たちの映画を見たのに頭が悪い感想しか出てこねえ!!!!!カッコいい〜〜〜!!!!あの3人カッコよすぎやしませんか!!!!!好きにならざるを得ない…!!!

 

舞台は1960年代アメリカ。未だ人種の分離政策が行われ、差別が根強く残る時代のNASA。絶句するような時代を描いているのに、これ未だ現代にもあるのでは…???というところが散見されて、お腹が痛くなる。誰も彼も肌の色が違うくらいでなにが変わるのか!同じ人間だろうが!と怒りが燃え上がるのは、製作陣の人を描写することの感度が高いのと、意志が一貫しているからだろうな。惜しみない賞賛を送りたい。
差別を描写することが差別を塗り直すことにはならないということを、こうした映画が証明していることは本当に希望だと思う。

本部長がトイレの標識を壊すこと、ユダヤの男性がマリーへ技術者になれと言うこと、現状に甘んじるなという行動と言葉がガンガン響く。

「今日扱う事例の中で100年先まで必要なものがいくつありますか?」って至言だと思う。
今のことが大事じゃないという話ではなくて、前例がない、通例はそう、で片付けられることがいかにマジョリティの横暴なのか。自身にはどうすることもできない。出自も 、肌の色も。それらを乗り越えるためには前例にならなければならないと決心した彼女の心中は、どれほど不安だったことだろう。それでもガッツポーズをした彼女の姿は大変な希望に満ちていたように思う。
教室に行った時「女性向けの…」って言い澱む先生に「男と同じだと思いますけど?」って返すところ、ソーーーーークーーーーーール!!!!!!!!

 

「偏見がある訳じゃないのよ」
「ええ、知っているわ、そう思い込んでいることをね」
このやり取り、端的に鋭角でえぐってくる感じが素晴らし過ぎやしませんか…???差別に対して無頓着であったことよりも、差別はしていないと目を背けていたことに対する断罪だ。人の足を踏んでいたのなら、いの一番にすることは謝罪だし、自分に非がないと弁明することではない。このシンプルなことが難しくて、すぐに逃げを打つ自身にも歯噛みする。

私は誰かの足を踏んではいないか、それに無頓着ではいないか。これは巡り巡って、きっと私の大切な人を大事にすることだと思う。


ドロシーが部下を引き連れて歩いてるシーン、眩し過ぎて号泣が加速した。なんなら画面が見えなくてちょっと止めた。レンタルで良かった。

会議に出させろ!と訴えるキャサリン(きっと気が遠くなるほど何度も言っただろう)と、彼女の能力が必要だと判断した本部長のやり取りに力一杯拳を突き上げた。そしてその会議で燦然たる仕事ぶりを見せた彼女に、惜しみない賞賛を送った飛行士の彼は誰よりも当事者だったからだろう。あのチョークを手渡すシーン、美しかったな。

みんなが不安と焦燥を抱えてロケットが飛ぶのを待っている時。飛行士が「あの切れ者がオッケーを出したなら俺は飛ぶ」と言ったのが熱過ぎたし、抜群の仕事でそれを返したのまでが最高。彼女がいかに優秀であったかを物語っている。 人を宇宙に飛ばすという前代未聞のプロジェクトに、選りすぐりの人が集まって、固唾を飲んで行方を見守っているあの高揚感は、今では想像がつかないほどの瞬間だったに違いない。

 

語り尽くせるものではないですが、すごい元気と勇気をもらう映画でした。あと音楽も抜群にカッコイイ。花マルをつけて次世代へ贈りたい。

ペンタゴンペーパー感想。

言いたいところと見せたいところが明朗闊達な映画だったので、スッキリしたなーーー!という感じ。
世界の巨匠にこんなこと言うの大変おこがましいんですけど、ビジネス書みたいな映画だったな……いや、あの、悪い意味とかじゃなく、方向性と言いたいことが一貫してるから、視聴者として、とても安心して見えたという意味で。
情報の取捨選択が上手いから、残すべきエピソードをグッと絞り込んでるんだろうなって感じ。紋切り口調というか。

 

テーマとしてもう少し詳しく言及してくれているブログを読んだんですが(見失って引用できない)、女性差別の視点から見たらもう少ししんどいのかもしれない。
彼女の努力と決意の重さに気づいたのが、ベンの奥さんであることと、それを彼女に言われるまで気づかなかった彼の姿がすごくリアルだなと思って唸りました。押さえつけられることのない立場にいる人って、時々驚くぐらい踏まれている人に鈍感で、彼もきっとそうだったんだろうな。彼が特別悪いとかじゃなくて、階段の上にいる人って段差が見えないんですよね。上から見たら全部平らだから。

 

個人的に、決断が下されて輪転機が回り始めるところで涙が溢れて止まりませんでしたね……。これは報道の自由に感化されたというよりは、311の東北の印刷が回り始めた時とものすごくダブったからなんですけども……。日本の出版業界の命綱とアメリカの報道の自由と、届かなければという信念が動かす光が恐ろしく美しく見えて、ああ怖いなと身震いしました……。
美しく見えるとそのまま退廃まで転がるのがすぐな気がするのは、行き過ぎた感傷だと思いたい。

自らが奉ずるもののために誠実であろうとすることの難しさが胸にくる映画でした。失敗もするけれど、いつでも最善を尽くすように頑張れって、勇気が出る言葉ですよね……ちょっとしんどいけど。
席を2つ挟んで、同じように鼻をすすっていたお姉さんと勝手に連帯感を感じてました。いい映画だったな。

スリービルボード感想。

シェイプオブウォーターとスリービルボードアカデミー賞を争ったのめちゃくちゃ熱い。

 

この作品たちが描こうとしている、もしくは描いたものの方向は同じなんじゃないかなぁと思ってるんですけど、ちょっと乱暴かもしれません。
スリービルボードの方が救いはなくて、でもそれはより現実に肉迫してくるからかもしれない。当人たちの視点と他者からの視点は稀に重なり、多くは酷く乖離しているものだということをまざまざと突きつけられる。
法が法としてきちんと機能しない、閉鎖的で停滞したコミュニティで何かをすること自体が異端である、ということを真正面から描いていて、それがもうビリビリと痛い。自分だけにくる非難なら耐えられても、まわりの人(特に身内や友人)を公然と切りつけられるのはしんどい。そして彼らにも耐えられる限界はあるし、そこに行くまでに亀裂は幾らだって入る。人間だから当然だ。

なんで人って、遠くの他者に酷いことをするのに対するハードルが低くなるんだろうな。
ギリギリの中で喘いで、でもうまくいかなくて、自分も他者も信じられなくなることってある。でもその度に、急に誰かの行為や言葉に救われたりもする。偶発的で予測ができないから生き延びられてるのかもしれない。
それでも私はビルボードを焼かれたミルドレッドが号泣するシーンで泣いた。あれは彼女の礎を焼かれたんだ。そのまま彼女も焼かれてしまいそうだった。怖かった。
焼いた張本人は万引きしたようなテンションなのがまたリアルだったな……誰かの心を焼くのにそんなに強い力は要らないんだ哀しいことに……。

 

最後のシーンで新しい署長が「犯人ではない、でも気を取り直して捜査を続けよう」って言うんだけど、あんなに絶望するものかと驚いた。 
ギリギリに保ったコップのふちから水が溢れるように、「あ、いまこの人はトリガーを引いた」と思って背筋が凍ったし、スクリーンから目がそらせなかった。
失敗を繰り返せる回数みたいなものって多分あって、(ゲームとかであと何機残ってるかみたいな話なんですけど)最後の藁に縋ったあとに待ち受けるのは溺死だ。
そして彼らは溺死する選択を選んだのだろうけど、あれが間違いだったとは思えなくてぐるぐるしてる……もう一回見返したいけど、ちょっと怖い気もする。

シェイプオブウォーター感想。

やさしくてやさしくてあんなに美しい話があるもんか!とスクリーンに花束を投げつけたくなる映画でした。
あんなにやさしいお話ある!!!!!?ってぐらいあとからじわじわきてる……ねぇほんとすごい良かった……毎日が戦いのようだと思っている人にぜひ観て欲しい……すごい救済の映画です……。

 

カーストの上のほうにいる人たちが無意識に行う踏みつけに、声を上げることが生活の破綻に繋がる人々(底辺と呼びたくないけど、上の方の人たちが度々そう呼ぶ類)の日常が酷い現実味を帯びて、こっちに突っ込んでくる。苦い、噛んだことのある味がする、砂のような感触が口の中に広がる。
繰り返す単調な生活の中にも楽しみは散らばっていて、まぁいいとは言えないけど、私の人生だって悪くないものよ、強がりかもしれないけどね、っていう入りがすごい。私もその中にいる気がする……。

人間の尊厳って、いや、人間ってなんだろうなって、ずっとこっちに問いかけられている。それが明日雨降るかな?降るかも、くらいのテンションで落ちてくるから、じわじわっと染みてくる。なんだろうな人間って。
イライザの言葉を話せない私と彼は何が違うの、彼を見捨てたら私たちも人間じゃないわ。って。これ、多分今の私たちに問われてることなんだと思う。舞台はアメリカだけど、どこもそうだよね。
助けたい、とか、死なせたくない、とか、大層な美辞麗句で飾られた理由よりシンプルなことで人が動くことに、希望を感じる。
一度俺には関係ない!って言ったジャイルズも、彼の日常の中で苦しんでいて、結局手伝うことにしたりとかね。でも彼が一目見たときに「美しい…」ってこぼしたのは、芸術がもつひとひらの希望を感じずにはいられなかったな。その瞬間に彼が味方になったことがわかるの心憎い。

誰もが自分の欲しいもののために、しがみつきたいもののために躍起になってるの、誰一人余すところなく『人間』を描いていて震えた……外から見たときは強者と弱者かもしれないけど、みんな自分の弱いところを抱えて戦っていたり、もしくはそれを隠す、あるいは強者であるために動いていくのゾクゾクする……単純な勧善懲悪じゃないけど、支えになるものの代替性の高低でどちらに軍配が上がるのかが見えてくるの、めちゃくちゃ上手い描き方じゃん……自分のアイデンティティに近い理由で動く方が強いって信じさせてくれるの!ほんと監督レジスタンスのヒーロー……すき……。

誰かを傷つけたり、傷つけられたりする日常の中で、それでも上から被せられる的外れな親切に、毅然と反論する姿に、後から涙腺をガンガン叩かれてて、帰り道の電車で歯をくいしばる羽目になる。
お節介に諦めの感謝なんかするなよって言ってくれるのめちゃくちゃ勇気が出る。どうやったらこんなにやさしい選択を嫌味なく描けるの、ねぇ、ほんとねぇ、広げられた物語の優しさにビックリする……世界への感度が高過ぎやしませんか……かみさまみたいじゃん……。

最後の最後でよく喋るお口が喋れなくなるところむちゃくちゃグッときて、ヨッシャ!よくやった!!!ってガッツポーズしかけましたね。ナイスワーク!!!!!スカッとした。
ギルレモ監督の解像度の高い世界に飛びこんで、気がついたら空を飛んでるし大海原を遊泳してるような気分になる映画でした……。

 

ひとり真夜中に観たくなる映画なので、レイトショー、とても良かったです。
終電に急いで席を立つ人の小さなスマホのライトの揺らぎさえ、送り火のようで、なんだか泣けてきちゃいましたね……。