遠雷

見た映画の感想など

トップガンマーヴェリック感想。

久しぶりに映画、そして映画館への熱を取り戻すのにふさわしい作品は?と聞かれたらこう答えるだろう。『トップガンマーヴェリック』を観よと!

些か誇張気味ではあるが、およそ2年ぶりに映画館で観た作品としては満点をつけたい気持ちでこれを書いている。
数多の勲章を引っ提げて、上官へ楯突き続けるマーヴェリックは、大変不器用な人間だ。彼の功績を鑑みれば、少なくとも後2つほど上の階級でなければおかしい。
ただ彼は飛行機乗りとして、いや“飛行機乗り”としてしか生きられないのだから仕方がない。彼の古くからの知己は、彼以上に彼のこの本質を知っていたのだろう。

古巣への呼び戻しは彼にとって吉か凶か。
生存確率が低い任務で、彼に飛べではなく“お前のように飛ばせろ”と上は言う。若き精鋭たちの中にかつて背を任せた親友の息子、射抜くように彼を睨む。
“俺を信じろ”と言ったマーヴェリックに反発するルースター。それを力技で信じざるを得ない状況へひっくり返すところが彼が彼たる所以だろう。自身の技量へ自負があるものほど、目の当たりにした彼の飛行にぐうの音も出まい。圧倒的な実力差は、反発を超えて信頼へ転換される。
それでも過去から脱しきれないルースターへ、幾度となく彼はこの言葉をかける。

“考えるな動け”
これこそが彼の生き方そのものだろう。
無謀さは運命が愛した。墜ちないイカロス。
溶けぬ蝋は、彼を少しでも長く空へと願う人たちの執着だろう。彼の空の姿を見れば、賭けずにはいられない。

F14を飛ばした瞬間、あの頃が甦っただろう。レーダーに現れたF14に、誰よりも早く“マーヴェリックだ”と気づいたサイクロンはそこへ何を見ただろう。
無線が繋がらないと叫ぶルースターへ「それはお前の親父がやっていたから知らない」と返すマーヴェリック。その返事までの長き日々を思う。

彼は空で生き続けるだろう。
パイロットを必要とされなくなる、いや必要とされなくなってからもきっと。
幸運の女神の前髪で空へと縫い止められた男よ。


私も“その顔は好きじゃない”